ほうっと息を吐き出したおれの後頭部を隙ありとばかりに、菊地先輩がべしりと叩く。


「いてっ! 何するんすか」


「ぼけっとしてんじゃねえよ」


菊地先輩は気持ちを切り替えた口調で、


「腹へったな、帰るぞ」


と自転車にまたがった。


「はい」


とおれが荷台にまたがろうとすると、


「おいおい、後輩。何してんだい」


菊地先輩は右手でおれの胸を押し返した。


「何、って……帰るんじゃないんですか」


おれは人差し指で学校がある方角をつんつん指す。


菊地先輩は親指でひょいひょいと荷台を指さす。


「誰が乗れって言ったよ」


「へ……」


にっ、と意地悪な笑みを浮かべた菊地先輩の口元から、白い歯がこぼれる。


「後輩。楽しようなんざ、あと10年は早い」


さー、走れ走れ、と菊地先輩が笑う。


「来月は秋季大会だぞ。後輩」


「……それとこれとは別ですって! まじありえないっす!」


「なあに。距離的にはたいしたことねえだろ」


まあ、確かにそうだ。


でも、今日も炎天下でのきっつい練習だったのに、さらにまだ走れと言うのか。


「先輩はチャリですか……」


「当たり前だろうが」


「あああ! ずるいっす!」


ぎゃあぎゃあと食い下がるおれに、菊地先輩は穏やかな口調だった。


「ずるいとか言ってたら成長できねえぞ」


「だから、それとこれとは話が――」


「平野」


一瞬、硬直した。