ここ数年は他の高校のレベルも上がって来ていることから、行けない年もあるけど。


県内での甲子園出場回数は群を抜いている。


私立 桜花大学附属高等学校。


野球の名門校だ。


桜花の野球部員は毎年総勢100名にもなるそうだ。


全校生徒数は県内最大2000人のマンモス校。


桜花の野球部のそのほとんどが寮生活をしている事を、聞いた事がある。


私立なうえ、1年中遠征などの費用で、相当の金がかかる事も知っている。


金が、かかる。


家は決して裕福じゃない。


それは……分かってんだけど。


「声がかかったんだ。来ないかって。桜花に来ないかって」


そうしたら、諦めるなんて、できなくなってしまった。


「桜花で、甲子園目指したいんだ」


やべえや。


声は上ずるし、手が震えて止まらなくなった。


「桜花で、野球がしたい!」


ぼつぼつ、汗がしたたり落ちる。


ピンと張ったピアノ線のようなこの緊張感に、窒息しそうだ。


「修司」


じいちゃんの渋い声が、頭上から落下してきた。


「はい!」


「あのな、修司。おめえの気持ちはよおぐ分かる。んだけどな、修司」


やっぱり、ダメか。


分かってはいたんだ。


覚悟はしていたし、できていた。


「はい」


でも、今ここで「やっぱりそうですか」「分かりました」ってあっさり頭を上げたら、負けだと思った。


おれは土下座したまま、もう一度、頼んでみた。


「桜花で野球やらせて下さい!」


縁側に1年を通してぶら下がっている風鈴が、りんりん、かんかん、鳴った。