崩壊した街中。かつては人々で賑わっていたであろう広場の跡に、軍服を血で染めた青年が一人、沈んでいく夕陽を眺めていた。
紫紺となり行く空に、夕陽色に染まった風景。
まるでこの世界に存在するのは彼だけかのように、辺りは静かである。
青年は両手で持っている機関銃を見つめ、唇を噛み締める。
「まだだ……まだ、終わらない」
力なく下ろされた手の中から、機関銃は音を立てて地面に落ちた。
それを見て、青年は掠れた声で呟く。
「いつになったら、この戦争は終わるんだよ」
地下で怯えながら暮らすこの街の人々を守るために、敵を散々殺してきた。
幾度となく、相手の血を浴びてきた。
なのに、一向にこの戦争の終わりは見えない。
緩やかな風が頬を撫でるのを感じ、彼は空を見上げた。
「このまま、時が止まってしまえばいいのに」
そうなれば、平和になる。
街の人たちだって、外に出てくることができる。
そんなことを胸の内で呟いた自分に、鼻で笑う。
「現実的じゃないな」
機関銃を拾う。夕陽に背を向け、みすぼらしい街中を歩き始めた。
かつて此処がどれほど賑わっていたのかを、青年は知らない。
軍人となるまで、地上に上がったことすらあまりなかったからだ。
「あれは……」
ふと目に入った廃墟ビル。その屋上に見える、少女の姿。
「もう陽が沈んでしまうのに」
胸騒ぎを覚えながら、足早に彼はその建物に足を踏み入れる。