頬に突き刺さる風が、人気のない市場を通り過ぎる。
崩れ落ちた無数の建物に、枯れた噴水だけがある、かつての広場。寂れた街中には、いくつかの死体が転がっていた。

そんな中、屋根がほとんど崩れている廃家を背に、血で汚れたセーラー服を着ている少女が一人、壁にもたれていた。

青が掛かった翡翠色の瞳は呆然と、紫紺(しこん)の空を見つめている。
腰辺りまである白銀の髪が、茶褐色になった血をより一層目立たせていた。

少女はそっと、首に触れる。その手にも、血がついていた。

( 俺は、君の味方だから )

脳裏で響いたその言葉に、彼女はふらりと立ち上がる。虚ろな瞳のまま、静寂なる街中をしばらくの間歩き出した。

するととある廃墟ビルが、少し先に姿を現す。少女は迷わずその中へと足を踏み入れた。
荒んだ階段を慣れたように上がっていき、錆(さ)びれた扉のドアノブを、おもむろに回す。

「………」

辺り一面に広がる紫紺の空。それを見て、彼女は立ち止まる。無意識に、唇を噛み締めていた。

込み上げて来る罪悪感を抑えながら、白銀の髪を靡かせ、前に進む。
一段上り、そこで足を止めた。

見渡す限りに広がるわびしい街並みを見て、少女は小さく笑った。
両腕を広げ、彼女は言う。切なげに言う。

「さあ、彼が愛したこの瞬間(トキ)と共に、もう眠りましょう」

そう言って、そっと胸元に手を添えた。

「――……」

緩やかな風が頬を優しく撫でる。それを感じ、彼女は微笑む。

「さようなら、私の世界」

そして少女は、紫紺の空に身を投げた。