「でもさあ、残念ながら二人が何を話してるかまったく聞こえないね。
あのテーブルに盗聴器でも仕掛けてれば別なんだろうけどさ」


「まあまあ。
そこは私に任せなさい」


ほたるはそう言って、自分の薄っぺらな胸を勢いよくたたく。


Aカップゆえ、まったく弾力はなかった。


ただ骨を叩いただけだ。


やがてほたるはドヤ顔でこう打ち明けた。


「こう見えても私にはね、ドクシン術があるのよ」


「ドクシン術?
独身かそうじゃないかを見分ける術のことかしら?」


「んなわけないでしょ!」


ほたるが頭をはたく仕草をした。


「相手の唇の動きから言葉を読みとる技術よ。
漢字ではこう書くの」


ペンでストローの袋に「読唇術」と書いて見せた。


「知ってる!
テレビで見たことがある。
すごいじゃん。
やっぱりほたるって、ただ者じゃなかったんだね」


ほたるは目を凝らし、数メートル先で楽しげに会話する氷室とかすみを注視。


二人のやりとりを見事に、そして克明に再現してみせた。