ほたるは氷室の部屋にいた。


この部屋には余計なものが一切なかった。


殺風景とはこういう部屋のことをいうんだろうな。


ほたるは辺りを見回しながらそう思った。


あたたかいシャワーを浴び、やわらかいバスタオルで濡れた体を巻くと、脱衣所に出た。


脱衣かごには洗濯されたジャージが几帳面に畳んで置かれていた。


そのやさしさにほたるの胸がキュンとなる。


涙がうっすらと浮かんだ。


当然ながら、袖を通すとあり得ないくらいブカブカで、かすかに氷室の匂いがする気がした。


脱衣所を出てリビングに向かうほたるを、湯気の漂うココアとしかめっ面の氷室が迎える。


氷室が腕組みして尋ねた。


「月越くん。
キミに質問だ。
なんでボクのマンションに勝手に来たりしたんだい?」


「すみません。
ご迷惑おかけして・・・」


「別にキミを責めてるんじゃないよ。
ボクはただ理由を知りたいだけだ。
しかもこんな遅い時間に。
女子高生がうろうろするような時間じゃないだろ」


ガラス机の置時計が八時半をさしている。