他人が真剣に生きてる姿に触れると僕は、幻滅と無気力のぬかるみに意識の歩みを止められてしまう。右脳と左脳がシロップ漬けの果実のようで、新鮮さと刺激が欠落してゆくのだ。
僕の連れてきた両脇にいるシドとミドが、朝靄のような表情で僕を見上げている。
「何をそんなに焦っているの?」
「何をそんなに思い詰めているの?」
僕はふと現実に戻り、右前に見えるメニュースタンドに焦点を合わせた。コーヒー。キャラメルスプラッシュ。メイクドインサンセット。チャーリーペイブメント。
そこには静かに喉を拡げさせる僕のよく口にする飲み物があった。
ゆっくりと手を伸ばしてスタンドをたぐりよせようとすると、後ろ側の座席に座っている誰かの声が聞こえてきた。
「あの人さあ、何かさあ、私の知らない女のところにちょくちょく泊まりに行ってるみたいなんだよね」
「そうなのお?あたしんち全くそういうのないわよぉ?」
「だってあなたんとこ固いもんねぇ」