「マスター。」
彼女がいなくなり、少し寂しくなった店内に、彼の声が響く。
凛とした、真っ直ぐな瞳。
『黒の王』と呼ばれる最強の少年は、少しだけ心配そうに俺を見つめた。
「ん、なんだい?隼人くん。」
「…もう一杯くれ。」
俺はそれに「りょーかい」と笑いかけると、特製のコーヒーを彼のカップに注ぎいれた。


 沈黙。
彼なりの配慮だろう。
「何か言いたいなら聞いてやる。」
無言でそう語りかける。
静かな店内に、コーヒーの香りが広がる。

「彼女はマリア。この店の常連だよ。」
「…。」
「知らないかい?」
「…名前くらいは。」
「はは、どうせ匠くんあたりが噂してたんだろ?マリアちゃん綺麗だからねぇ。」
「本名か?」
「たぶん違うんじゃないかな?」
「あいつ…」
彼が手を止め、つぶやく。
「ん?なに?」
「ブラックコーヒーみたいだな。」


 彼を見つめる。
表情は変わらないけど…
君も、彼女に感じるかい?


深い悲しみと、絶望を。


「甘党の君らしい表現だね。笑」
「うるせー。」
少しムッとした表情をして、彼は代金をテーブルに置き立ち上がる。
「最強と謳われる君が実は甘い物好きなんて、ちょっと面白いよね。」
「だから黙れっつの。」
「いいじゃないか。俺と君の仲だし♪」
「…。」
すごく不快な顔をされました。笑
「そんな顔しなくたってい「ごちそーさま。」」
「わざわざ被せて言うことないじゃないか…っ!泣」
床に手を着いて、えぐえぐと泣く俺に向かって彼は不敵に微笑んだ。
「あんたはそーいうキャラの方が似合ってる。」
「隼人くん…(感激)」
「真面目ぶるとキモいしな。」
「ヒドっ!!」