「え…」
私が驚いてマスターを見つめると、ちょうどコーヒーのタイマーが鳴った。
「ん、コーヒーが出来たようだね」
話をそらされた気がした。
この人は、一体何を考えているのだろう。
ちょっと抜けているかと思えば、恐ろしいほど的確に人の心を見抜いてしまうこともある。
「はい、マリアちゃん。」
優雅な動作で、私の前にティーカップを置く。

 私は、この人が怖い。

「ねぇ、マスター。」
コーヒーに口をつけながら、私はつぶやいた。
「ん?何かな?」
「これ以上私と深く関わらないで。」
静かに、でも有無を言わせない口調で私は告げた。
「…」
「あなたはこの店のオーナーで、私はただの1人の客。それ以上、それ以下でもないでしょ?」
「俺はマリアちゃんと仲良くしていたいよ?」
「私は嫌なの。」
マスターはすこし悲しそうに笑った。
「そっか。気をつけるよ。」
「これからも店には来るから。」
「そう。ありがとう。」
「ここは逃げ込むのにはちょうどいいの。」
私が自嘲気味に笑うと、マスターと目が合った。
「君は何から逃げてるの?」
珍しく真剣な瞳で言うマスター。

「そんなの決まってる。


  …世界から。」