「訊こうとしなかったのは翠だろ? ……決して自分からは動かない。手を放そうともしない。それで誰が救われる? 誰が得をする? ……利益が生まれる場所があるなら教えてほしいんだけど」
 翠は何も言わず、唇をきつく噛みしめた。
「翠はずるい。俺と秋兄をどちらも選ばないくせにどちらも手放さない。すぐ手に入りそうな場所にいるくせに、絶対に踏み込ませないし踏み出さない」
 秋兄、翠を追い詰めるっていうのはさ、ここまでしないとだめなんだ。
 間接的にとか、じわりじわり責めるやり方じゃだめなんだ。ストレートに、容赦なく逃げ場をなくす追い詰め方をしないと――。
 こんなやり方が好きなわけじゃない。ただ、ここまでしないと翠は動かないから……。
 翠の目から涙が零れ落ち、頬を伝った。