「翠がそこにいるって聞いた。診察が終わったなら中庭に招きたいんだけど」
『……ならば、本人に直接伝えたらいいだろう?』
「その本人が携帯を所持しているなら父さんに電話したりしない」
『それはそれは、貴重な電話をもらえて光栄だ』
「喜ばなくていいから。終わったら――」
『断る。大体にして何時だと思ってる?』
「……父さんが翠を迎えに行かなければ、あと三十分は早く呼び出せた。第一、翠を待っているのは俺だけじゃない。秋兄も一緒」
『ふたりとも外に?』
「そう……かれこれ三十分以上前から」
『それはご苦労なことだが……。よそさまのお嬢さんをこんな時間に、しかも男ふたりのもとへなど送っていけるか。ひとりじゃないからいいとかそういう問題じゃない。今日は諦めろ』
 一方的に言われ、一方的に切られた。