気づけば、すぐ近くに涼先生が立っていた。
「体調はいかがですか? 疲れてはいませんか?」
 涼先生は私と目線を合わせるために床に膝をつく。
「昨夜、注射を打っていただいてからはなんとなく楽な気がします」
「そうですか? たった今、あまり大丈夫ではないという会話が聞こえたのですが」
 その顔で無駄に微笑まないでください、とお願いしたくなる。瞳の奥まで見透かすような目もツカサと同じ。
 この目にはその場凌ぎの嘘は通用しない。それなら、正直に話したほうがいい。
 ただ……たった今、蒼兄に答えたこととは正反対のことを口にするのが憚られる。重い気持ちを引き摺りつつ、
「……体調、というよりも気持ち的なものです。だから、大丈夫です」
 言った直後、ごめんなさいの視線を蒼兄に送ると、肩を竦めて苦笑を返された。