「そう。今ここに会長はいない」
「どうして……?」
「理由は知らない。でも、いない」
 それで納得すれば良かったのに、私は近くを通りかかった御崎さんを捕まえた。気がついたら手が伸びていた。
「あのっ、朗元さんは?」
 御崎さんは少し驚いたように目を見開いたけれど、すぐに佇まいを直す。
「会長でしたらお部屋にお戻りになられました」
「……どうして、ですか?」
 一呼吸おかなかったら問い質すように訊いてしまっただろう。
「お休みになるためです」
「え?」
「明日はご自身が主賓でいらっしゃいますし、パーティーは朝から夜まで続きますので、本日は休み休み参加されるとうかがっております」
「……そう、なんですね。ありがとうございます。すみません、お仕事の邪魔をしてしまって……」