「ですが、あのままでは――」
「携帯はダミーだ。オリジナルは保護してある」
 武明さんはそこで黙った。
「幸い、あなたはこれがとても大切なようだし……。そうよね、このストラップをなくしたとあれば、プレゼントしていただいた方にお話しないわけにはいかないものね?」
 越谷の手は池へと伸ばされる。
「やめてっっっ」
 翠が叫ぶと同時、携帯は緩い弧を描いて池に落ちた。
 短く水音が響き、桜香苑はすぐに静寂を取り戻す。
 今は水面に波紋が残るのみ。
「携帯がなければ私がやったという証拠も残らないわ」
 越谷は愉快そうに笑った。
 高笑いは脳に響き、神経を逆撫でする。