越谷まりあは雅さんとつながらない。
 雅さんならもっと違う言葉を選ぶ。
 もっと効果的に、精神的に翠を追い詰めるような言葉を。
 言葉のみで翠の心をズタズタにできる、そういう人だ。
 翠は、報労金は落し物現物でなくても構わないはず、と冷静に答えた。
 冷静を装っているだけだったかもしれない。
 ただ、ここからは翠の表情が見えないため、声音から判断するしかなかった。
「そうね……。それなら、私、落し物なんて拾わなかったことにしようかしら」
「え……?」
 越谷は笑みを深め、さらに池へと近づいた。
 俺は越谷とは別の意味で口端を上げる。
 そうだ、そのまま携帯を池に落とせ……。