「驚いたわ。パスワードも何もかけていないなんて。そんな携帯に、まさか藤宮の方々の番号がこんなにたくさん入っているだなんて」
「返してくださいっ」
 苛立ち、焦り、怒り――そのどれともわからない翠の声があたりに響く。
「あら、何を今さら焦っていらっしゃるの? ずいぶんと遅いのではなくて? 私がこの携帯を手にしてからどのくらい時間が経っていると思っているのかしら?」
 そんなことを翠が知るはずもない。
 携帯がないことに気づいたのは今少し前なのだから。
 越谷の笑みの作り方は雅さんそのもの。
 完璧としか言いようがなかった。
「データなんて数分もあればコピーできるのよ? それに、いくつかの操作でこの携帯を初期化することもできるのだけど、ご存知? ――噂は本当なのね。機械には疎いって……」
 それは否めない。が、おまえも唯さんに相当遊ばれているけどな……。