もう、それまでの不安定さは微塵も感じさせない。
 いつもと変わらない茜先輩がステージに立っていた。
 そして、頼まれたはずの椅子はステージ中央にあり、そこに行儀良く座っていたのは一匹の猿だった。

 歌が終われば一際大きな拍手喝采が沸き起こる。
 それは奈落も会場も変わらなかった。
 茜先輩はそれらに丁寧なお辞儀を返す。
 十分な時間をかけても鳴り止みそうにはない拍手に見切りをつけ、ステージと実行委員に昇降機を下げるように伝える。