窓際に座る司くんのもとに真っ直ぐ歩みを進める。
「司くん、唯さんにお願いって何かな?」
 ……うはっ、面白い。絶句してるっ!
 ここまであからさまな顔をされるとは思いもしなかった。
 でも、間違えないでよ?
 俺は「唯」であって、今は「若槻」じゃないからね?
「……唯、さん?」
 首を傾げた男子に見下ろされた。
 あぁ、君は昨日のサザナミくんだよね?
「うん。唯一の唯に植物の芹で唯芹って書く。でも、友人も家族も俺のことは『唯』って呼ぶよ。愛称みたいなもん。間違っても唯芹って呼ばないでね? それは俺が特別好きになった女の子だけに呼んでもらう予定だから」
 にっ、と笑い、最後に「ねっ?」と司くんを見ると、
「翠も唯兄って呼んでる」
 と、補足説明をした。