「だから、俺もそれを見習った。スパイクは足慣らしをしてあるものを常に二、三足は用意しておく。試合や記録会の時間は自分で調べて、会場までの交通手段も自分で把握しておく。自己責任でクリアできる部分は意外と多かった。……俺の場合、御園生みたいに体調が絡む問題じゃなかったし、物理的なものはどうにでも回避できたんだ。だから、御園生の気持ちがわかるなんて軽はずみなことは言えなかった」
 佐野くんは少し黙ってから、
「傷つけたらごめん。でも、御園生はいくつかの世界を持っていたほうがいいと思う。俺の世界は家と学校だけじゃなかったんだ。陸上を通して他校の人間との関わりもあったし、塾にも友達がいた。入院してるときに知り合った人間。うるさいくらいかまいたがりやの姉貴ふたり。うちのじーちゃんちって神社だからさ、そこら辺の近所の人ともみんな顔馴染みで、学校以外の人たちと関わることができたから、俺は人間不信にならなかったんだと思う」
 学校以外の人――。