「でも、やっぱり……。ここにいるなら学校へ行かなくちゃ――」
「それが違うんだよ。行けると思ったときに学校までの距離が負担にならないようにここにいるのであって、ここにいるから学校へ行かなくちゃいけないわけじゃない」
 秋斗さんが言っていることは正しい。でも、難しい……。
「翠葉ちゃん、人にはがんばらなくちゃいけないときとそうでないときがある。翠葉ちゃんはそれを間違えていると思うよ」
「がんばらなくちゃいけないときとそうでないとき?」
 訊き返すと秋斗さんが頷いた。
「全国模試前、テストを受けるために君は薬を飲むのを遅らせてがんばって耐えていたよね? じゃぁ、今は? 今はどういうとき?」
 今……?
 今は六月半ばで――とくに何があるでもない。次の試験は期末考査だから七月頭……。
「あ……期末考査までには復調しなくちゃっ」
「そうでしょう? だとしたら今は?」
「……体調を立て直すことに専念しなくちゃいけない時期」
「当たり」
 秋斗さんに言われるまですっかり忘れていた。
 薬を飲むのを遅らせたときにはしっかりとそこまで考えていたはずなのに。
 少し体に余裕がなくなるだけで、そんなことにすら気づけなくなってしまう。
「秋斗さん、忘れていたことを思い出させてくれてありがとうございます」
「どういたしまして」
 にこりと笑って頭を撫でられた。
 秋斗さんは説明をするのか上手だと思う。
 力ずくでは意見を通さない人、というか……。私が自然とそう思えるように誘導してくれる人。
 人の扱いが上手だと思った。