トイレから出ると吐き気のひどさに廊下で蹲る。すると、蒼兄がベッドまで運んでくれた。
「翠葉ちゃん、明日学校はどうする?」
 学校――。
 そうだ、学校へ行くためにここに引っ越したのだ。
 行けるか、よりは行かなくちゃ、という感じ。
 じゃないと、ここへ来た意味がなくなる。
「行きます」
「無理は良くないわよ?」
「数日休んだらどうだ? 今日みたいな調子じゃ椅子に座るどころか、体起こせないだろ?」
 確かに、体を起こすことすら無理なのかもしれない……。
 でも――。
「翠葉ちゃん、そんなに焦らなくても大丈夫」
 声をかけられ秋斗さんを見ると、秋斗さんがベッドサイドまで来てくれた。
「まだ高校は始まったばかりで翠葉ちゃんは日数が足りなくなるほど休んでるわけじゃない。だから、今は休むべきじゃない? 少しでも薬に体が慣れたら一時間でも二時間でも授業に出るように努力する。それでいいんじゃないかな?」
 秋斗さんの声音は優しい。けれども、今は休みなさい、と強く言われた気もする。
「ここに越してきたのは翠葉ちゃんが無理をするためじゃなくて、体力を使わないで学校へ通うためでしょう?」
 そう言ったのは栞さんだった。