「じゃ、父さんはこれで帰るな」
「うん。……早く、退院できるようにがんばるね」
「……翠葉のペースでな」
「うん……」
 私ががんばればいい。
 私さえ元気になればいい。
 そしたら、誰も傷つけないですむ――。

 お父さんが帰ったのは八時過ぎ。
 就寝時間まではまだ時間がある。
 私は携帯を持ってベッドから抜け出た。
 左手に携帯、右手に点滴スタンド。
 そんな状態で病室から顔だけを出して廊下を右左うかがい見る。