痛む指先を我慢して携帯の操作をする。
 今、日付が変わったところ。でも、この人なら絶対に起きている。
 コール音が数回鳴ると、「翠?」と低く落ち着いた声が耳に響いた。
 この声が好き……。
 心にすっと染み込んでいく感じがする。
「夜遅くにすみません……」
『いや、起きてたから問題ないけど――』
 まだ続きそうな先輩の言葉を遮り自分の要件を伝える。
「先輩……お願い、十を数えてください」
 先輩からの反応はすぐには得られなかった。
「自分で何度も数えたの。でも、だめだった……。お願い、十、数えてください」
『何かあっ――』
「何も訊かないでっ。……お願い」
『……わかった』
 先輩は一息置いてから数を数え始めた。
 一クール終わると、「数えたけど?」と言われる。
「……もっと聞きたい」