栞さんは穏やかに微笑むと、
「今日はこれで帰るけど、明日からは普通どおりに来るから」
 と、立ち上がった。
 ドアまで歩いていくと、
「碧さんからいつでも泊っていいってお達しもいただいているの。だから、翠葉ちゃんが心配なときは遠慮せずに泊ることにするわ」
 そう言うと、栞さんは部屋を出ていった。
 やっぱり――お母さんはどこまでも用意周到で、簡単に私をひとりにする気はないようだ。
 でもね、お母さん……。
 私には私の意地も見栄もあるの。
 それを手放したら、私はなし崩しに脆く崩れ去ってしまいそうで怖いの。
 だから、それだけは手放せない。