「ほら、本当は横になっていたいんでしょ? 寝ちゃいな。起きたらコールしてよ。飲み物持ってくるからさ」
 唯兄はそう言うと部屋を出ていった。
 入れ替わりで栞さんが入ってくる。
「いい関係が築けているみたいでほっとしたわ」
 言いながら、栞さんはベッドに腰掛ける。
「唯兄は蒼兄ほど選んで言葉を話さないから……」
「それは翠葉ちゃんにとって嫌なことなの?」
 首を傾げて訊かれた。
「嫌、ではないです。ただ、時々意表をつかれてドキッとします。嫌な自分を見つけちゃったときのドキ……。少し心臓に悪いんだけど、でも知らないよりは知っていたほうがいいこと」
「……若槻くんが負担になっているわけじゃないのね?」
 どこか確認するような言い方だった。
「はい。唯兄がいると救われることがたくさんあります。とくに、蒼兄やお母さんといて空気が重くなるとき。そういうときに唯兄が何かを話すだけで魔法みたいにその場の空気が軽くなるんです」
「……良かったわね」