「急に呼び出してすみません」
「いや、いいけど……。誰なんだ? ここにいるの」
「それは十階に着いてから。一度携帯の電源を落としてもらって、十階に着いたらすぐに電源を入れてください」
 それの意味するところもわからなかったが、とりあえずは司の言うとおりにした。
 ここではまだ何も話せない、そんな空気が伝わってきた。

 司の表情はいつもと変わらない。
 エレベーターに乗り込む前に医師や看護師たちから挨拶をされても飄々と応えている。
 何ひとつ、態度にも出さない。
 ポーカーフェイスなのか、地なのか、全く読めない。
 俺のほうが付き合いは長いはずなのに、近頃じゃ翠葉のほうが司の表情を読むのがうまい気がする。
 それはただ単に、司が翠葉の前で表情を崩しやすいという話なのか違うのか……。
 十階に着くと、言われたようにすぐに携帯の電源を入れた。
「で?」
「ここにいるのは秋兄。この病院の人間も少数の人間にしか知らされていません。ましてや、翠に知られるわけにはいかないので……」
 いくつかのセキュリティを解除すると、目の前には病院とは思えない光景が広がっていた。
 まるでホテルのような様相を呈する場に、きょろきょろと周りを見回してしまう。