「車停めたらすぐに行くわ」
「わかった、先に行ってる」
 正面玄関で下ろされ院内に入ると見知った顔があった。
 本来こんなところで見かける顔ではない。
「司さん、おはようございます」
 と、声をかけてきた女はとても健康そうで、病院へなど来る必要がない部類の人間。
「柏木さんがここになんの用?」
「父の仕事についてきたんです。でも、まさか司さんに会えるとは思ってもみませんでした!」
 彼女は得意そうに笑む。
「そう。俺は用があるから」
 あまり話したい相手ではなく、すぐにその人間を避けて先に進もうとしたら、
「待ってください」
 と、腕を掴まれた。
 振り返り様に、「何」と声音を落として訊くと、
「家庭教師、夏休みからってお話でしたけど、できたら期末考査からお願いしたくて!」
 まるで断られるという選択肢がないかのように口にする。