すると、美葉はカップを手に取り、豊、ではなく今度は貴之の方を向いた。

「なんか、ここに来てからコーヒーばっかり飲んでる気がする」

 貴之にとっては、事あるごとにコーヒー、が当たり前だったので、こうして誰かに指摘されるまで、それを改めて考えたことなんてなかった。

「あ……イヤだった?」
 不意だったので、貴之は妙に弱気になってしまい、恐る恐る尋ねてみた。

「ううん、イヤじゃない。おいしいから」

 美葉の言葉が、素直に嬉しかった。
 そして、なんだかすごく照れくさかったので、貴之は無意識に別の話題を切り出していた。

「今日、仕事どうだった? 疲れたろ」

「疲れた。でも、楽しかった」

 口数少ない美葉の言葉からは、裏が感じられず、それが貴之を安心させる。

「明日からも、頼むな?」

「うん」
 そう答える美葉も、なんとなく嬉しそうだ。