②

「あっ、九時だ。<河内心蔵の爆笑!今週の日本>の時間だ」

「やだ。私、あの芸人嫌い」

「陽気で面白いじゃん<ハート河内>」

「私、水谷豊が好き」

「わかったよ。<相棒>にすりゃいいんだな」

 テレビのチャンネル争いなんて、貴之にとってはかなり久しぶりだった。
 少なくとも<一人で暮らすようになってから>は、なかったはずだ。
 ちなみに尚樹という人物はテレビをあまり観ない、ウトイ人間なので、そのような状況にはならないのだ。

 貴之は二人分のコーヒーを淹れ、水谷豊に夢中になっている美葉の前にその片方のカップを置く。

 ありがとう、と画面に向かって会釈する美葉。
 あまりのゾッコンぶりに思わず「そんなに豊か!」と、中途半端なツッコミを入れてしまう。