貴之は勢いよくドアを開けた。
 じっくり万遍なく、辺りを見回す。


 誰もいない。


「誰もいないぞ、美葉」

「いたよ、たしかに」

 コーヒーの香りに誘われたのだろう。
 キッチンから尚樹が出てきた。
 二人の会話も聞いていたらしく「看板娘にさっそくストーカーか?」などと笑っている。


「やめろ、気持ちわりい」

 なんとなく、貴之は冗談として笑い飛ばせずにいた。