平然と、冷淡な響きを持った声で龍星が告げる。

 少年は、再びぎりりとその紅い唇を噛み締めた。
 こちらから、選択肢を突きつけに来たはずなのに、それがどうだ。
 いまや選ぶことも出来ぬような言葉を喉元に突きつけられているではないか。

 血気盛んな少年にとって、これは屈辱でしかない。
 しかし、同時に。
 これは、一つの光でもあった。

 命を落とさず都に戻れる、千載一遇の機会。

 少年は頭を巡らせる。
 もっとも、精神は己のものでも頭の器官そのものは借り物なのでうまく巡るはずもなかった。

「今度、嵐山に出向く。
 そのときに使いのものをやろう。
 それまでに返事を決めておくといい」

 友人と遊びの約束を取り付けるような気軽さで、龍星が言う。


 敵としか認識していない陰陽師に、腹が立つほど優しく諭され、悔し涙が滲む。
 いっそ、敵として対峙してくれたらどれほど楽か。
 たとえ、一方的に負けたとしても納得がいくというものだ。

 しかし、目の前の人は己を敵とも思ってくれない。
 やんちゃな弟が絡んできた、くらいに軽く見ているのだ。

 こちらは、それでなくても薄い命を削ってやってきていると言うのに。


 はらはらと、少年の瞳から涙が溢れる。
 せめて、愛しい女の涙を見て動揺を覚えればいい、と、心のどこかで思っていた。

 しかし、龍星はそれすらも感情を持たない黒い瞳で一瞥するのみだった。



――完敗。

 少年は、心のうちで敗北宣言し、憑坐から離れていった。