龍星はぽんと、少年の頭を軽く叩く。
 それは、まるで本物の毬を宥めるかのように、そっと。

「本気で対峙したければ自分の身体で出てくるんだな。
 お前が師匠のことを諦めるというのであれば、社会復帰する手助けをしてやってもいい」

 その耳元に、恋を囁くようにそっと、言葉を投げかける。

「!」

 少年は弾かれたように顔をあげた。
 その瞳は、完膚なきまでに打ちのめされたためか、涙でしっとり濡れている。

「だ、めだ。
 俺には親父が勝手に交わした契約があって……。
 あそこから出たら死んじゃうんだよ……」

 強がっていた少年の唇から、本音が零れる。

「では、家のことも師匠のことも捨てればいい。
 本気でそう望むなら、俺が道剣に掛け合ってやる」

 敵だと思っていた人間から、今その息の根を止めてやろうと思っている相手から、そんなことを言い出され行家は声も出なくなる。
 龍星は、嫣然と微笑む。

「身元不明の子供が道剣に育てられた。
 師匠が居なくなって、行き場所もない。
 となれば、衛士府(えじふ)として雇ってもらえばいいんじゃないか。
 きっと、帝のお目に留まるさ」

 普通は一介の衛士府ごときが帝の目に留まることなどまずない。
 しかし、あれほど逢いたかった人がそこに来たと知れば、あの帝が放って置くはずがないと龍星は踏んだ。興味を持たなければ、持たせてやれば良い。それだけのことだ。

「どちらを選ぶかはお前次第だ。
 もっとも、道剣が無事そこに帰れるかどうか俺は知らぬがな」