「今日は何をしに?」

 まるで、酒を飲みに来た雅之にでも問うかのような緊張感のない声で、龍星が問う。
 少年は重たい身体を引きずり、なんとか四つんばいの姿勢を改め正座した。

「てめぇを殺しに、だ」

 一方的な殺意を込めた目と口調。
 それは、今までの彼の生活を現すようで、聞くものが聞けば凄みを帯びたものに聞こえただろうし、震え上がるものも現れるようなそんな声だ。

 龍星は、しかし、艶やかな紅い唇で甘く微笑み、愛を囁くように口を開いた。

「妹の身体を使って、か?
 それは利口じゃないな。この部屋に刃物はないし、毬の力では俺の首を絞めることもかなわぬよ」

「だからっ。
 この身体を殺すっ」

 少年がその指で毬の身体を指した。
 龍星は、さして動揺した様子もなく、むしろ優雅に微笑んでさえ見せた。

「今、俺を殺しにと言ったではないか。
 俺は毬の婚約者ではあるが、本人ではない。
 その身体を殺しても、俺は殺せない。無益だな」

「……てめぇ。婚約者が人質にとられてるっていうのに、その態度はないんじゃねぇか?」
 
 馬鹿にされていると悟った少年の頬に、屈辱に満ちた朱がさした。
 龍星は形のよい瞳を眇めて見せるが、口許の笑顔に変化はない。

「人質?
 何処で?
 憑坐にしたことで、それが自分の人質になったとでも思っているのか。
 愚かだな」

「何を……」

 ぎりり、と、少年は血が滲まんばかりに唇を噛み締めた。