少年は、寝着を纏うと足を動かそうとして、よろけた。
 それが本当に毬であるなら龍星はすぐにでも抱き上げたであろう、ふらつき方だ。

「……お前、何をした」

 畳に膝を突いた少年が、今まで感じたこともない異変をその身に感じてうめき声をあげる。
 身体の奥は燃えるように熱く、倦怠感が鎖のように絡みつき身動きに支障をきたす。

「何も」

 龍星は涼しい声で答える。
 戦う気はないようで、上に着物を着ようともしない。

「……嘘をつくなっ」

 少年の瞳には、強い悪意が滲んでいた。
 とても、その所有者が毬の時には見られないような目つきに龍星はため息をつく。

「嘘ではない。
 まぁ、強いて言えばごく普通の夫婦が夜な夜なするようなことをやったまでさ。
 ……なんなら、今からその身体で試してみるか?」

 からかうような言葉と、あざ笑うような視線に少年の顔がみるみる朱に染まっていく。

「この変態野郎っ」

 自由にならない身体を持て余しながら、少年は上目遣いで不平を投げつけた。

「妹の婚約者にそんなことを言うものじゃない」

 龍星は子供をたしなめるようにさらりとそう言った。
 あまりにさらりと言われたので、少年がその言葉の意味に気づくまで若干の時間がかかる。

「……お前、俺のこと……」

 気付いた途端、顔色がみるみる青ざめていく。

「お会いするのは二度目――いや、三度目かな?
 藤崎行家(ふじさきのゆきいえ)」

 まるで、知り合いの公達にでも出会ったかのように、軽い調子で龍星が言う。

 打ちのめされたような沈黙の後。

「もう、その名前は捨てたんだ……」

 少年が、毬の声を借りて絞り出すようにそう言った。