「で、少年。
 何が望みだ?」

 龍星はまるで昼間のように、闇を気にすることなく立ち上がって服を着る少年の所作を見つめていた。
 もっとも、中身は少年でもその身体はつい数刻前に愛し合ったばかりの愛しい人のものなのだが。

 その白い胸には、龍星が唇で刻んだ紅い印も色鮮やかに残っている。

 くぅ、と、少年は唇を噛む。

「時間が……無いんだ」

「だろうな」

 龍星は人の悪い笑いを唇に浮かべた、いっそ、淫靡とも取れるような色気のある笑いだ。

 龍星が毬を本当に抱いてしまえば、もう、この少年はこの身体を憑坐(よりまし)としては使えなくなる。


 龍星は、そう。
 それを知っていて今夜、彼女を抱かなかったのだ。

 双子であるだけに、毬とこの少年との結びつきは深い。
 敏感にそれを察知して、ことに及ぶ直前に毬の身体を乗っ取られれば、龍星とて困ってしまう。

 もっとも、それでも本気で毬を抱く方法もないわけではない。
 だが、息苦しいほどの結界の中で睦みあう気にはなれなかった。