毬は龍星の胸に顔を埋めたまま首を横に振る。

「そうじゃないの。
 内裏に行く必要があるなら、行ってもいいわ。
 都中、いえ、都の外にだって一人で出向くのも厭わない。
 だけど。
 最後はここに帰って来たいの。龍の傍に居たいの」

 お願い、分かってと胸の中で毬が呟くように懇願した。
 
 龍星はそっと毬の肩に手をやり、その身体を引き離す。
 無理矢理覗き込んだその顔は、涙で濡れていた。
 少々のことでは泣き出すような姫ではない。少なくとも数時間の留守番を申し出たくらいで泣いてしがみつくようなやわな姫でないことは、龍星が一番良く知っていた。

「――どうした?」

 何がそこまで、不安にさせる?

 心配顔の龍星に深く瞳を覗き込まれた毬は、唇を噛んで首を横に振る。