「龍」

 唇付けにうっとりと瞳を閉じて答えていた毬は、放された瞬間、ぎゅうと龍星の背中に手を回して名前を呼ぶ。

 彼女を抱きしめたことは数多(あまた)あれど、抱きつかれたことなど滅多にない龍星は形の良い瞳を細めて宥めるように毬の背中をそっと撫でる。

「何?」

「私、どこにも行かないよね?
 ずっと、龍の傍に居られるよね?」

 掠れた声は今にも泣き出しそうなほど潤んでいて、先ほど冷静を取り戻したばかりの龍星の心の柔らかい部分をぎゅっと鷲掴みにしてしまう。

「もちろん。
 毬が望まないのに内裏に連れて行かせはしない」