足元がふらつくのは、食事もとらずに寝ていたせいか。

「毬?」

 部屋から出たところで、気づいた雅之が声を掛けてくれた。

「雅之、龍は?」

「今、支度中……」

 雅之の言葉を最後まで聞くこともなく、龍星の部屋へと足を進める。

「龍」

 毬の痛々しいほど悲痛な叫び声に、龍星は弾かれたように振り向いた。
 今にも倒れそうなほど、真っ青な顔。

 龍星は浮かび上がる心配を胸深くに押し殺して、その口許に甘い笑みを浮かべる。

「目が覚めたんだね。
 でも、まだ疲れは取れてないようだ。もう少し休んでないといけないよ」

 毬はその艶やかな声が耳に入らないかのように一方的に言葉を投げる。

「何処に行くの?私も連れて行って。
 それに、お姉さまの件はどうなったの?
 私の記憶は何処に飛んだの?」

 毬を不安にしているものを、全て疑問にしてぶつけてくる。
 龍星は震える毬を腕の中に抱き寄せた。

「記憶の行方は一緒に探そう。約束する。
 今日、毬は俺とずーっと一緒にいた。心配には及ばない。
 あの男の要求に対する答えは、現在保留中だ。
 今すぐ毬が御所に浚われることは絶対に無い。
 そして、俺はこれから少し雅之と出かけてこなければいけないんだ。
 仕事でね。
 簡単な話なのだが、どうしても直接出向く必要がある。
 帰ってきたら毬の隣で眠っていい?」

 質問の一つ一つに簡潔に答えると、毬の顎を持ち上げ掬い上げるような唇付けをした。