龍星と雅之がそんな会話を交わしてからしばらく経った頃。


 毬は一人、ゆっくりと目を覚ました。

 真っ暗な部屋の中、少し離れたところに置いてあるろうそくの薄明かりだけが優しく辺りを照らしていた。
 いつもより濃密な空気を感じ、ここが結界の中だと悟る。

「龍っ」

 思わず口にした声は自分でも情けなくなるほど弱弱しかった。

「毬様」

 耳に聞こえたのは華の声。
 目が覚めたときはここに居なかったはずなのに。扉も開いてないというのに。
 今、当たり前のように枕元に座っている。

「華、りゅ……安倍様は?」

「お出かけの用意をされてますわ。毬様には一晩中ここで休んでおくようにとのことですが。
 お気づきになったのなら、夕食の準備を致しますね」

 華が部屋から出て行ったのをぼんやりと見送ってから、毬も寝具から抜け出た。