「そうしていては解決しない。これは」

 咄嗟に口にしてみて、初めて、その現実がじわりと心に沁みた。
 そうだ、自分がうろたえている場合ではないのだ。

 都随一の陰陽師であり、幸い、自分で何とかできるかもしれない問題がここにある。

 指を銜えて誰かに依頼しなければ解決しない問題ではないのだ。

 ――そうだ。
  俺が、全力で護れば良いだけのこと――


 雅之は、突然、がらりと龍星の雰囲気が変わったことに目を見張った。

 いつも御所で見かけるような、余裕を持った微笑がその紅く艶やかな唇元に現れ、黒い瞳には、凪いだ海のような穏やかな色すら浮かべていた。

「俺は今から左大臣家に向かう。
 差し支えなければ、付き合ってもらえるかな?」

「もちろん」

 雅之は特別な力など何一つ持たないが、親友の為に骨身を惜しむことなどない良い男だ。
 夜の帳が下りた夏の都に、一筋の爽やかな風が吹き抜けていく。