「これはまだ仮定なのだが。
 毬は何かに憑依されたんだと思う」

「憑依?!」

 突拍子も無い発言に雅之は目を丸くする。
 龍星は毬が憑依された、つまり、何者かにとりつかれた、と言っているのだ。

「そして、そいつは以前にも毬に憑依したことがあるのだと思う。
 そのくらい、馴染んでなければこれだけの結界をかいくぐって下りてくることはかなうまい」

「以前」

「そう。毬が記憶をなくしているという嵐山での出来事と関係しているのではないか、とも思う」

 帝の前で毬の姿をした少年が言った言葉を龍星は思い出す。


 凛とした良く通る声で、アレはこう言った。

『 深い山に芽吹く新緑のごとく、いつまでも若くいらっしゃるような聡明なお方だと信じ、長い間お慕いもうしあげておりますのに』

 帝が東宮時代、自らを「常若(ときわか)」と名乗っていたというのは有名な話だ。
 そして、いつか帝は毬に「緑丸」を覚えていないかと問うたことがある。


 毬本人は記憶の欠片にもないそのことを。
 アレは知っていたのだ。