……良い匂い


 毬はそう感じて、満たされた気分で眠りから覚めた。
 瞳を開けた瞬間、隣に龍星の姿を見てドキリとした。

「龍?」

 これは幸せな夢の続きなのだろうか。
 それとも、残酷な現実の一片?


 龍星はゆっくり瞳を開くと、そっと毬の名を呼び手を伸ばして招いた。
 毬は誘われるがまま、龍星の傍へ寄る。龍星は仔犬を可愛がるように、毬の頭を撫でる。
 大好きな匂いがさらに強く鼻腔を擽った。

「ここ、どこ?」

 毬はぼんやり聞いた。

「勝手にうちに連れてきた。毬がいないと、眠れない。左大臣には連絡済み」

 龍星は夕べ、挨拶に行った際、左大臣から聞いた戯れ言には触れず、簡単に説明する。

 毬は辛そうに眉根を寄せた。