龍星は自嘲気味に唇を開いた。

「まったく。気の休まるときがない。
 世の中の姫君が家の中で、顔さえ隠して過ごしているのは男の都合だな、きっと」

 雅之は柄になく疲弊している親友を思いやって、柔らかな微笑を浮かべた。

「でも、毬はそういうのは苦手だろうな」

「全くだ。
 虎を檻に閉じ込める方がまだ容易い(たやすい)」

 龍星は苦笑とも微笑ともつかない小さな笑いを浮かべた。

「それにしても、この子はいとも簡単に人を振り回す。お前があの部屋に入ってきた時、俺は言葉を失ったよ」

 龍星は、昼間、接見の間に現れた雅之を思い出す。
 雅之は苦い笑いを浮かべ、軽く頭を掻いた。

「俺には翁の話を聞いただけでは、急を要す事態か、そうでないかは分からぬからな」

「いや、本当に助かったのだよ、雅之」

「そうか?
 だと良いのだが」

「そうだ」

 龍星は禁を破って毬を救ってくれた、親友の肩を叩き労った。