「毬」

 優しさを込め、艶やかな声で名前を呼ぶ。

「龍」

 その声で我に返り、視線を絡めた瞬間、毬はいつもの女の子らしい柔らかな表情で微笑んだ。
 そのまま、龍星の胸に顔を埋める。

「しばらく、こうしていて良い?」

 耳に馴染んだ甘えた可愛らしい声。

「いつまでもこうしていると良い」

 龍星はほっとして、毬を抱きしめた。

「ありがとう。
 こうしていると落ち着くの」

 毬は龍星が焚き染める香の匂いが大好きなのだ。
 幾度も深く呼吸して、気を鎮めていた。