十六夜にはかかわるなと云われたが、月夜は次の夜、黙って宮殿の様子を見に行くことにした。
 いつふたたび十六夜の命が脅かされるかもしれないというのに、手がかりさえない白童のことを優先する理由はない。

――それに、白童様は十六夜から目を離すなとおっしゃった。これがその意味だったんだ。

 月夜は闇の中で篝火に照らされ、おぼろに浮かぶ宮殿を遠巻きに見上げた。
 案の定警戒が厳重になっている。
 これなら、十六夜が宮殿から出ぬ限り問題は起きぬだろう。
 月夜はひとまず宮殿の外を見回ることにした。
 幼い十六夜と戯れた後宮の近くまで脚を運ぶ。
 今は、後宮にも警備の手がまわっている。
 しかし後宮に住んでいるのは確か世話役の者だけのはず。
 月夜は首を傾げた。
 代々ガルナの妃は一人だけとされている。
 確実に世継ぎをもうけるためにはいささか疑問も残るが、これまでの妃は間違いなく次の帝を世に産み落としてきた。
 しかし、なぜかみな短命なのだ。
 十六夜の母も例外ではない。
 前帝を失ったことで、十六夜は母も父もなくしたことになる。
 こぶしを握りしめ、十六夜の悲しみを強く胸に刻みつけた。

――十六夜は、ボクが守る。

 後宮の庭、秘密の階段へ続く道を歩いた。
 ここにはさすがに何の手もまわっていないようだ。
 だからこそ月夜は周りの気配に神経を尖らせた。
 しばらく付近を見回ったが、どうやらなにも無いようだと判断した月夜が踵を返した刻だった。
 鋭利な気配が一気に辺りを満たしていく。
 月夜は振り返ってその出所に目を瞠った。
 秘密の階段、その上の崖っぷちに月を背負った大きな影が浮かんでいた。
 それが発した覚えのありすぎる妖気に背筋が粟立つ。

「闇の…式!」