二人が交わした約束。
 月夜は十六夜を助ける。
 幼くとも、真実誓ったことはいまの月夜を形作ってきた。

「月夜……余は、恐ろしい……」

「恐ろしい?」

「そうじゃ……そなたを失ってしまったら、余にはなにも無くなってしまう。この国も…臣下も…民さえ、余を必要としない…」

 十六夜の手が、氷のように体温を失い続けていく。
 身体の状態が普通ではない。
 月夜は、青ざめた十六夜の肩をつかんでこちらを向かせた。

「馬鹿! 誰も十六夜を必要としない? 本気で云ってるのか。ガルナの帝は誰だ! 帝が国を必要としなければ、臣下を、民を必要としなければ、いったい何を守るんだ。国を導くのが、帝の務めだろう!」

「……月夜。やはり余にはそなただけじゃな」

 儚げな笑みを浮かべた十六夜の頬に、わずかに紅がさす。
 重ねあった手にも、少しずつ暖かみがもどり始めた。

「まだそんな…」

「帝に馬鹿だなど、そのような命知らずはそなたしかおらぬ」

 月夜は唖然と口をぱくぱくさせた。
 確かに、もしこれを誰かに訊かれていたら、大事になっていることだろう。

「失言でした…」

「無礼は承知の上でそなたを望む帝は、余だけであろうな」

「十六夜…」

 うなだれた肩を十六夜に叩かれ、今度は月夜が儚げな笑みを浮かべた。

「そう気を落とすでない。そなたを頼りにしているのじゃ…だからこそ、いまは余の気持ちを察してほしい。遠からず、そなたにも力を貸してもらわねばならぬときが来る」

 十六夜の真剣なまなざしに圧倒され、月夜はしばし口を閉ざした。

「そなたが頼りにならぬから、嘘を云っておるのではないぞ?」

 月夜はハッとして、複雑な表情を浮かべた。