「なにが…どうして…」

 半ば放心した月夜のつぶやきに、十六夜は部屋にいた者たちを全員下がらせると、近衛を扉の外に置いた。

「月読たちが、帝が襲われたと――」

 誰もいなくなったのを見計らい飛びついてきた月夜に、十六夜は穏やかにうなずく。

「本当に心配をかけた。じゃが、たまにはそなたに気遣われるのも悪くない…」

 起きたことも忘れて冗談めかす十六夜に、月夜は眉をしかめた。

「なに馬鹿なこと…命を狙われたんだぞ! ボクは…心臓が止まるかと…!」

 不意に肩を引き寄せられ、きつく抱きしめられた。

「…十六夜?」

「本当に…そなただけじゃ…余を心から案じてくれるのは…」

「そんなわけないだろう…重臣たちはみな…」

 十六夜の首が横に振られる。

「違う……違うのじゃ、月夜」

 月夜は戸惑いながらも、十六夜の背に優しく手を添えた。
 肩が…震えていた。

「ほら、ここに」

 十六夜をなだめて部屋の椅子に掛けさせ、月夜もその隣に腰かけた。
 彼の冷たくなった右手を握りしめ、その顔をのぞきこむ。

「誰に狙われた? まさか、暗殺者が…」

 十六夜からも、繋いだ手に力がこもる。

「それじゃが…そなたはかかわるな。このことは、すでに近衛に任せてある」

「十六夜……確かにボクはまだ月読として経験も浅い。けど、帝を守る臣下であることには…」

「月夜、わかってくれ。余はそなたを危険に晒したくはない」

 その科白に、月夜は言葉を失った。
 それでは何のために月読になったのだ?
 臣下としても認めてもらえないなど、存在を否定されたようなものだ。

「……あなたは……もう、忘れてしまったのか」