天照はうやうやしく頭を垂れ、十六夜の前に進み出た。
 チラと月夜を気にしたが、表情を変えることなく十六夜に視線を移す。

「恐れながら申しあげます。先刻、祓の儀式に向かった月読師二名が、不運にも魔物の襲撃を受け、重症を負ったとの報告が」

「なんじゃと、また魔物か…忌々しい闇の一族じゃ。して、容態は?」

「はい。一人は軽症でしたが、もう一人の状態は思わしくなく…」

 天照は苦々しい口調だったが、相変わらずその整った顔に一切の感情を浮かべることなく、しかつめらしい態度だ。
 月夜とは10季は離れているが、月読最高位候補としては最年少であることは間違いない。
 それだけ優秀だと云うことだが、月夜には少し苦手な相手だった。
 しかし同時に親近感もある。
 彼も月夜と同じように、若くして月読になり、十六夜の兄である冥蘖(めいげつ)の側使であった。 いまは冥蘖が王位継承を退き隠居をきめこんでいるため、側使としての任は行使されていない。
 この天照も、冥蘖に付き従い月読から側使になったと訊く。

「……では、すぐに別の者たちを神山へ派遣し、任務の引き継ぎを」

「いざ…帝。お言葉ですが、祓の儀式とはいえなぜそこまでして神山にこだわるのです? もしまた魔物に――」

「月夜殿」

 思わず口をはさんだ月夜を、天照の酷薄な口調が諫めた。

「よい、天照。……そうじゃな。そなたはまだ月読師として儀式に参加していなかったか。知っておろうが、祓は占術により導きだされた聖なる地で行う必要がある。そうでなければ、儀式は完成されないのじゃ…たとえそれがどんな険しい場所であってもな。ゆえに月読師は精鋭のみで構成されておる。それが上級能力者の務めぞ」