見られている…。
 月夜はハッキリとあの視線を感じていた。
 心臓が鼓動をはやめていく。
 振り向けばそこにいるような気さえする。
 そう思うと緊張で手が震えた。

――あなたは誰だ? なぜボクを見てる? どうしていつも…見てるだけなんだ。

 けれど月夜はどうしても、振り返ることはできなかった。
 不思議なほど懐かしく感じるその視線の先に、誰も見つけられないことはわかっていたから。
 だから、背中に背負った気配をふりきるように月夜は走り出した。
 宮殿の片隅から、そのうしろ姿を見つめる影があったことにも、気づかぬまま…。


 ◇ ◇ ◇


「…そうか、なにも見つからぬか。やはり、そなたの思い過ごしではないのか? 白童までが命を狙われたなど…」

 十六夜は執務を終えたあと、執務室で月夜の話に首を傾けた。
 月夜も、あれからすべての部屋を調べたが、部屋にも書物にも手がかりになりそうなものは見つけられなかった。

「だけど十六夜、前帝のこともいまだわかってはいないのだろう? なら、同じ者の手にかかった可能性もあるはずだ」

「それなのじゃ…月夜、当然余もそのことは調べておる。もしまだその者が宮に潜んでおるなら、余が見つけ出して捕らえてやる。そしてもし本当に白童に手をかけたのなら、必ずそのことを後悔させてやろうぞ」

 十六夜の瞳に、強い光が宿る。
 月夜の目にはそれが、真実を現す以外には映らなかった。

「十六夜……ありがとう」

「なぜ礼など…云ったであろう、そなたは余の大切な側使じゃ…そして大切な――」

 十六夜の言葉を遮って、執務室の外から声がした。
 近衛が十六夜の顔を一瞥して扉をあける。
 そこに、天照が立っていた。