これまでは漠然と受け入れてきた事実を、実はよくわかっていなかったのではないだろうか。
 いくら皇子に似ているとはいえ、帝にもっとも近い側使が拾った赤子を育てるなど、果たしてありえるものか…。
 それにいったいどんな意味が?
 考えれば考えるほど、己の生い立ちが奇妙に思えてくる。

――白童様は、何を考えておいでだったんだ。

 耳許で、金属の触れあう音が微かに鳴った。
 懐に入れてある鍵を服の上から確かめる。
 このことはまだ十六夜にも云っていなかった。
 何が入っているのか確かめてからでも遅くないと思ったのだ。
 そもそも何の鍵かもわかっていないのだし。

「…で、探し物は見つかったんですのん?」

「私は遺品の整理をしていただけだ」

 悟られぬよう毅然と云いはなった月夜を見て、イシャナは困ったような笑みを浮かべた。

「まぁ…ええですよ。確かに探し物するんも、まずはあるもん整理せんことには、らちあきまへんですやろ」

 イシャナが足許から拾い上げた書物の埃を払い、月夜の前に差し出してくる。
 それを受け取りながら、怪訝な面持ちで彼を睨み付けた。

「イシャナ…ガルナに来た本当の目的はなんだ?」

「ここに来た目的? 月夜様も知ってはるやないですか、技術の…」

「お前の入国を許した前帝も、技術指導を管理していた白童様ももういないんだぞ! いまのお前はこの国で完全に野放しだ。誰にも干渉されずやりたい放題かぎまわって…なぜ私を監視する!」

 イシャナは瞠目し、刹那考える仕草を見せてため息をついた。

「監視やなんて人聞きの悪い…せやけどこれだけは云わせてもらいます。確かに月夜様のこと、ずっと見てましたで…」